成人病センターにおける造血幹細胞移植の現状
○三村喜彦 礒野博希 中村真佐徳 野口啓子 山内由里子
県立成人病センター検査部
はじめに
骨髄移植は、今日では造血細胞移植療法と呼ばれますが、一部の造血器疾患に治癒をもたらす治療法として確立されてきました。当初は、@HLA遺伝的適合同胞を骨髄提供者とし、A移植骨髄の拒絶を予防するための十分な免疫抑制を患者に施し、B移植後の血液学的回復が得られるまでの期間、患者を無菌的環境に置く、骨髄移植が始められましたが、その後、真の対象である多能性造血幹細胞の源(sourse)は、HLA(human
leukocyte
antigen)一部不適合血縁者骨髄、HLA表現型一致非血縁者骨髄、自己骨髄、自己末梢血、同種末梢血、臍帯血へと広がってきました(図1)。当センターでは1989年に第1例目が行われて以来、現在まで同種移植115例(2002年8月現在)、自家移植53例(2002年1月現在)が行われています。今回、当センターで最も症例数の多い同種骨髄移植を中心に報告します。

図1
造血幹細胞移植とは
骨髄破壊的前処置の後、多能性造血幹細胞を輸注し、造血の再構築をはかる治療方法です(図2)。造血幹細胞によって、自家移植と同種移植、さらに同種移植は血縁者間と非血縁者間に分類されています。また、幹細胞源(sourse)によって、骨髄移植と末梢血幹細胞移植と臍帯血移植、HLAの適合性によって、HLA適合移植と一部不適合移植、HLA適合DNA型一部不適合移植などに分類されています。また、近年では、ミニ移植やCD34+細胞移植なども行われています。

造血幹細胞移植の種類(ドナーの種類)
〇自家移植(Autologous
transplant;Auto)
骨髄破壊的前処置の後の骨髄無形成状態に、あらかじめ採取保存しておいた自己の(骨髄、末梢血)造血幹細胞を輸注して造血を再構築する方法。移植片対宿主病(graft-versus-host
disease;GVHD)がなく、免疫回復が速いので間質性肺炎の合併が少ない利点があるが、移植片中への腫瘍細胞の混入の危険や移植片対白血病
(graft-versus-leukemia;GVL)効果がなく再発率が高い。
〇同種移植(allo;Allogeneic
transplant)
悪性腫瘍の治療において、超大量の化学・放射線療法で腫瘍細胞を根絶した後に生じる骨髄無形成状態や、量的・質的異常のある患者の造血幹細胞を、HLA適合donorからの正常な造血幹細胞で、置換して正常な造血能を再構築する方法。移植の際のGVHD
(graft-versus-host disease)に対して免疫抑制剤を投与する。GVL (graft
versus leukemia)効果が期待できる。
・ 血縁者(related)
HLA1座不一致まで適応。移植時期の調整が容易で、移植細胞数も十分期待でき、急性GVHDは比較的軽く、GVHD関連疾患も少ないが、GVL効果は期待できる。生着不全はまれで、再移植も可能、再発後のDLI
(donor lymphocyte infusion)は可能である。
・ 非血縁者(unrelated)
骨髄バンクと臍帯血バンクがある。
●
骨髄バンク
ドナーコーディネートに平均220日かかり、移植時期の調整が困難で、移植細胞数が少ないことがある。 HLAはDNA一致が望ましく、急性GVHDは重症に成り易く、関連合併症も多い。良性疾患で生着不全がやや多い。再発後のDLIは現時点では1回だけ可能、GVL効果はHLA一致同胞より強い。
● 臍帯血バンク
ドナーコーディネートに要する期間が短く(平均0.5〜1ヶ月)緊急的移植に対応でき、凍結保存なので移植時期の調整は容易である。造血回復が遅く、生着まで平均20日程度かかり、特に血小板の回復が遅い。良性疾患に拒絶が多いが再移植は不可能。元の臍帯血の量が少ないので、体重の重い患者では移植成績が不良。HLA2座不一致まで適応だが、GVHDの頻度は低く、程度も軽い。児のフォローアップ期間が短く、移植による先天性疾患継承の可能性は未知である。原則としてドナーへの侵襲はないが、臍帯血を採取保存するための多額の費用と設備を必要とする。再発後のDLIは不可能。
造血幹細胞の種類(当センターでの割合は図3〜図5を参照)

図3

図4
@ 骨髄移植(bone marrow transplastation;BMT):採取時に、全身麻酔下での骨髄穿刺(800ml前後)を行うため、4〜5日間の入院を要する。また、前もって自己血輸血を用意する必要がある。ドナー死亡例の報告(心停止・心室細動・アナキラフィシーショック・術後肺塞栓)がある。生着までに要する期間は平均18日程度。患者の方がドナーより体重が重いと、十分な細胞数が得られないことがあるが、移植後長期の造血能の維持に関しては、証明済みである。
A 末梢血幹細胞移植(peripheral blood stem cell transplantation;PBSCT):採取のために、G-CSFを4〜6日間投与し、1〜3日間のアフェレーシスを行う。そのため、7〜10日間の入院を要する。G-CSFによる短期的な副作用(骨痛・発熱など)が出現したり、アフェレ−シスに伴う低Ca血症や血小板減少が出現することもあり。世界で2例の死亡例(脳血管障害・心停止)の報告あり。ドナーの長期的な安全性については不明。凍結保存できるので、移植時期の調整ができる。ドナーの幹細胞動員効率により、細胞数がまちまち。造血回復は速やかで、生着まで平均14日程度。同種移植では慢性GVHDが多いが、白血病再発が少ない傾向がある。移植後長期の造血能維持できるかどうかは未検証。非血縁者では現在選択不可能である。
図5
B 臍帯血移植(cord blood stem cell transplantation;CBSCT)
C ドナーリンパ球輸注(donor lymphocyte infusion;DLI):同種骨髄移植後の細胞遺伝学的再発等に対してドナーのリンパ球を輸注し、GVL効果により、微小残存病変(minimal residual disease;MRD)の根絶を図る方法。
D ミニ移植(non-myeloablative stem cell transplantation;NMSCT):強力な前処置を用いずに、免疫抑制を中心とした前処置を用いて移植を行い、混合キメラを経て、DLI(ドナーリンパ球輸注)によって完全キメラに移行する移植法。治療関連毒性(regimen-related-toxicity;RRT)が少ないので、臓器障害のある患者や、PS(perfomance status)の悪い患者、高齢者にも適用になる。抗腫瘍効果が弱く、進行の速い疾患には不適である。